人間らしく育つ秘訣 絆づくりの基礎となるベビーウェアリング

ベビーウェアリングとは何か
人類がおこなってきた育児行動
現代社会の育児に関する行動の中で1万年前から継続しているのは、母乳を与えることと赤ちゃんをあやすこと、そして抱っこかおんぶをする道具の使用の3つだと考えられます。ひとりでは移動できない赤ちゃんをどこかに寝かせたまま目を離すのは危険でしょう。いつも自分の体にくくって一緒に移動するしかありません。
日本でさえも平安時代には赤ちゃんはまる裸で過ごしているのが普通だったので、1万年以上前ならおむつを含めて衣服に相当するものは着用してなくても不思議はないでしょう。現代でもアマゾンやアフリカの奥地で数千年前からの暮らしぶりを続けている人々がいますが、その子育てを観察すると上記の3つがみえてくるようです。
ベビーウェアリングと「赤ちゃんを運ぶ」ことの違い
スリングや布などを用いて赤ちゃんと密着してだっこやおんぶをすることをベビーウェアリング(babywearing)と言います。赤ちゃんを連れ歩くといっても、ベビーカーに乗せたりリュック型のつり下がるような密着しないタイプの抱っこひもなどはベビーキャリアー(baby carrier)と呼んで区別することもあります。
それぞれの選択に優劣をつけることはできません。目的が違うからです。
ベビーウェアリングは赤ちゃんが自分のカラダについていることにより赤ちゃんといっしょに移動することが容易になります。
ベビーキャリアーは運ぶことを目的としています。これは西洋の宗教観から生まれた育児方法とも言われています。(*参考:「ふろしき」で読む日韓文化/李御寧/学生社)
ベビースリングの生みの親 ジーン・リードロフ氏
1984年に刊行された『野生への旅 いのちの連続性を求めて』(*ジーン・リードロフ著/山下公子訳/新曜社-絶版)という本があります。これはアマゾン奥地に住む先住民たちの子育ての様子をのべ2年間にわたって観察した記録が綴られた本です。その社会では赤ちゃんは社会の一員として扱われ、やがては立派にそれぞれの役割を果たす人として成長していくそうです。
商品としてのスリングはこの本を読んだレイナー・ガーナー博士により1980年代の前半に考案され、その後商品として世界中に広まっていきました。ガーナー博士と妻のサチさんは生まれてくる自身の子を人類がずっとそうしてきたように抱っこしながら育てたいと考え、スカーフを用いて抱っこしました。スカーフでの抱っこは赤ちゃんが無理のない姿勢をとれるだけでなく、授乳も手軽で母子ともに密になり、安らかで幸せな気持ちになることができたそうです。しかしながら布の端を結んだだけのスカーフでは大きさの調整が面倒で、体型の違う夫妻でかわるがわる使用するには不便だったそうです。そこでリングで調整できるようにしたのが商品としてのスリングの始まりです。(*Babywearing/Maria Blois,M.D with a Foreword by William Sears,M.D/Phaemasoft Publishing)これと同じ時期には赤ちゃんと母親(父親)を長い布で包むようにして使用するベビーラップ(baby wrap)の商品もヨーロッパで販売されたようです。
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ベビーウェアリングの効果
体への負担
ベビーウェアリングすることで、赤ちゃんと使用者は密着します。そのことにより重心が同一になりやすく、負担が少なくなるという利点もあり、赤ちゃんにとっては信頼できる人(保育者=ほとんどはお母さん)と離れることなく、においや鼓動も感じられるために安心できます。
ベビーウェアリングの中でも、ベビーパウチ(baby pouch)のように使用者と密着しない抱き方(道具)もあります。これは重心は同一化されにくいですが、使用者側の負担を受ける位置が背筋を中心に広い筋肉で占められるため、ぶらさがるような抱っこ紐に比べて負担感は軽減されます。パウチも赤ちゃんがいつも「抱かれている」という感覚を持ったり、においや鼓動を感じられるのは同じです。
また赤ちゃんにとっては、股一点で支える抱っこ紐はパラシュートのハーネスのようなところに長時間座っているのと同じような状況におかれます。ベビーウェアリングは赤ちゃんの体全体を包み込んでいるためにソファでくつろいでいるような状態になります。どちらが赤ちゃんにとって心地よい環境なのかは、すぐにわかりますね。
心への影響
ヒトが人間らしく育つためには、周囲とのコミュニケーションを図りながら家族単位、村や社会の単位で生活していく必要があります。そのために必要なのは他者と共存していくことを大切にする気持ちです。他者と共存するには他者と自分自身を大切に思う気持ち=「基本的信頼感」がなければなりません。
胎内の快適な環境に対して、赤ちゃんは生まれた瞬間から様々な試練を乗り越えなければなりません。胎内に対してこの世界はどれほど大変なところでしょう。不快な状態を泣いて知らせるしかない赤ちゃんは、世話を受けることで『不快→快』に変化する経験を積み上げていきます。そのたびに「この世界はすてきなところだ、いいところだ」と認識していくのです。このような感情の行き来を繰り返すことで、まずは自らと自らの周囲を「よいところだ」と認識し始め、世話をする人(多くは母親)を信頼していきます。この信頼する心がないまま大人になると、周囲を信じることが出来なくなり、精神的にもつらい状況を招きやすくなると言われています。
基本的信頼感は根拠のない自信と言い換えることもできます。誰かに勝って1番になったという自信は相対的なものです。相対的な自信しか持ち合わせないといつも1番になり続けなければ自信が持てません。「○○ちゃんもすごいけど、私はわたしでいいんだ」と思えるようになることが、基本的信頼感を獲得する意味なのです。わたしは大切な存在だから、あなたも大切な存在であるという尊重する気持ちや慈しむ心が育っていきます。

この「基本的信頼感」を獲得しやすいのがbabywearingのだっこやおんぶです。赤ちゃんと常に近くにいることで、赤ちゃんの要求を察しやすく、また世話もしやすい状態を保つことができます。赤ちゃんが不快そうにしている時に早く関わってあげられる。あるいは、今「飛行機を発見した!」→「うれしい」という喜びを感じたなら、近くにいればそれを分かち合うことができます。この人はわたしのことをわかってくれる、信頼できる人だと思います。こうした日常の小さな積み重ねがお母さんや家族を信頼できる人と思えるようになるのです。
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